こんにちは。長年の頭皮のかゆみを解決するべくアレコレ試している化粧品開発者のかこです。
今回は、X(Twitter)のフォロワーさんが困っていたので、お悩みを解決する記事です。
専門的なことを知ろうと思うと、検索の方法にもコツが必要です。
普通にgoogle検索しただけだと、どんな人が書いたかわからない、根拠もわからない、コピペしただけのような記事が出てくる…という状況でモヤモヤすること、ありますよね。
信頼できる、ちゃんとした情報が知りたい!となると、文献や論文を探す必要がでてきます。
誰でも自由に発信できるネット情報と、世に出るまでに他人のチェックが入る文献や論文では、どちらが信頼できるか明らかですよね。
というのを私がブログで書くのも変な話ですが、基本的には論文などの情報元を明らかにしつつ記事を書いていきますので、大目に見てください(笑)
ということで、いただいたお題「アゼライン酸とその誘導体アゼロイルジグリシンKの効果の違いとなぜ誘導体を処方するのか」を例に、実際に私が行った検索の流れをまとめました。
これが唯一の正解というわけではありませんが、答えにたどり着くことはできたので、一例としてご覧ください。
ステップ1 日本語でざっくり検索
今回は一般の方が真似しやすいということも考えて、簡単な方法で検索して知りたいことがわかればそれに越したことはないので、簡単な方法から検索を進めます。
まず、日本語で検索してどんな内容が出てくるか把握します。
google検索
何はともあれgoogle検索です。「アゼライン酸 アゼライン酸誘導体 違い」で検索して、上位のサイトを確認しました。
正しいかどうかはとりあえず置いといて、一般的にどんなことが言われているのかを把握する目的で見ていきます。
その中にあったSNOW FOX SKINCAREさんのサイト。
「アゼロイルジグリシンK」とは?驚くべき効果やアゼライン酸との関係を解説
「アゼライン酸は溶けにくいので化粧品への配合が難しく、それを改良した誘導体が登場した」ということが書かれています。最後にまとめられている参考情報が論文ではないので、さらに調査が必要ですが、筋が通っています。
Cosmetic-Info.jpで検索
次に、Cosmetic-Info.jpで検索します。
Cosmetic-Info.jpとは久光工房さんが作っているサイトです。代表者の方は化粧品業界では有名で、化粧品成分検定協会の代表理事も務めています。
成分の表示名称、それを配合した商品、それに対応する原料などが検索できるため、化粧品開発の関係者が日常的にお世話になるサイトです。
「アゼライン酸」「アゼロイルジグリシンK」について検索してみると、エイチ・ホルスタインさんで4種類の原料を取り扱っていることがわかりました。
調べ方の詳細は私の過去のアメブロ記事にまとめています。
アゼライックアシッド 50% シクロシステム コンプレックス
アゼライックアシッド
アゼクレア
アゼクレア P
ここでも「アゼライン酸は溶けにくいので化粧品への配合が難しく、それを改良した誘導体が登場した」と説明されています。
また、「アゼライックアシッド 50% シクロシステム コンプレックス」はシクロデキストリンという「水に溶けにくい物質を溶けやすくする成分」を利用してアゼライン酸を溶けやすくしている原料なので、このような使われ方をすることからも「アゼライン酸は水に溶けにくいらしい」ということがわかります。
(シクロデキストリンが水溶性を高める詳細なメカニズムはこちらから:日本食品化工(株)HP)
化粧品成分オンラインで検索
次に、化粧品成分オンラインで検索します。
このサイトは運営者の氏名や会社名は明らかにされていませんが、膨大な論文、専門書、化粧品メーカーや化粧品原料メーカーの公表データが網羅されていて、最近ではCosmetic-Info.jpからもリンクで飛べるようになっています。
検索したところ、アゼライン酸のページはまだありませんでした。
随時新しい成分ページが追加されていますので、今後の更新を待つことにします。
こちらも調べ方の詳細は私の過去のアメブロ記事にまとめています。
情報の信頼性について
ネットで検索するとさまざまな情報が出てきますが、私は次のように考えています。
【信頼できる】
- 大手化粧品メーカー、化粧品原料メーカーの情報
- Cosmetic-Info、化粧品成分オンライン
- 論文や文献などの情報元が記載されているとき
【さらなる裏取りが必要】
- 情報の出所がわからないとき
- 医師監修のコラム(正しい場合もあるが、化粧品に関しては誤った情報もよく見られる)
ステップ2 日本語で論文検索
ステップ1で「アゼライン酸は溶けにくいので化粧品への配合が難しく、それを改良した誘導体が登場した」というのがどうやら答えのようだ…とわかりました。
今度はそれを裏付ける論文を探していきます。
英語に抵抗のない方は最初から英語で検索するほうが早いかもしれませんが、大多数の人は日本語のほうがとっつきやすいので、まず日本語で検索しました。
J-STAGEで検索
J-STAGEとは、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) による論文検索サイトです。
「アゼライン酸」で検索すると、検索結果が500件出ました。
工業分野や化学合成に関する論文がほとんどだったので、化粧品に関するものは10件ほど。
残念ながらその中にお題の答えはありませんでしたが、おもしろいものを見つけました。
これは医師が尋常性痤瘡(いわゆるニキビ)、酒皶(しゅさと読みます。顔に赤みやニキビのような発疹が出る)の治療を適切に行えるように日本皮膚科学会がつくったものです。
この中でアゼライン酸について下記のように述べられています。
日本皮膚科学会がこれまでの国内外の研究を踏まえて書いているので、信頼できる内容です。
- 角化異常抑制作用,抗菌活性,皮脂分泌抑制,抗炎症作用などがある
- 海外では臨床試験例が多くあるが、国内での報告は少ない
- 日本では化粧品の成分の一つであり、医薬品としては未承認
CiNiiで検索
CiNii(サイニー)とは、国立情報学研究所(NII)による論文検索サイトです。
「アゼライン酸」で検索すると、検索結果が73件出ました。
こちらも残念ながら核心に迫る情報はありませんでした。
ステップ3 英語で論文検索
日本語の論文検索では、アゼライン酸とその誘導体の違いについての情報は得られませんでした。
海外のほうが臨床試験の報告が多いということからも、英語で検索する必要がありそうです。
英語でgoogle検索
まず、英語で「azeloyl diglycinate」とgoogle検索するとどんな情報が出てくるのか確認してみました。(成分の英語名は、Cosmetic-Infoで調べることができます)
その中で論文が2報ありました。
英語の論文、どこを読めばいい?
ここで、英語の論文の大まかな構造を説明しておきます。(日本語の論文でも同じです)
学生の時、実験レポートは「目的」→「方法」→「結果」→「考察」の順で書くように習った記憶のある方もいるのではないでしょうか? その延長線上にあるのが論文です。
- Abstract(抄録、要旨):研究の背景と、どういう目的で、どんな調査や実験をして、何がわかったか、何が課題か、といったことが簡潔にまとまっています。ここを見れば、知りたいことが書いてあるかがわかります。動画でいうサムネイルや冒頭部分のようなものだと思ってください。
- Introduction(序論、導入):今までに同じ分野でどのような研究がなされ、何がわかっていて何がわからないのか、何が課題なのかを明らかにしつつ、後に続く論文の内容の新しさ・重要さを述べます。その分野の現状を理解するのに役立ちます。
- Material and methods(材料と方法):どのような材料・道具を用いて、どんな方法で実験を行ったかが説明されています。研究の世界では「再現性がある」、つまり他の人がやっても、何度やっても、同じ結果になるということが重要なので、他の人でも同じ実験ができるように細かく述べられています。
- Results(結果):行った調査や実験の結果が記載されます。ここで述べられるのはあくまで「事実」のみです。推測は含まれません。
- Discussion(考察):Resultsをふまえて、それをどう解釈するのか、どういうことが予測されるのか、今後どういったことが課題かを他者の研究内容も参考にしつつ述べます。Resultsと異なり、推測や仮説も含まれます。
- Conclusion(結論):行った調査や実験でわかったことが簡潔にまとめられます。動画のまとめ部分のようなものだと思ってください。
今回の場合だと、アゼロイルジグリシン2K(potassium azeloyl diglycinate)がどのようなものか、おそらくIntroductionに書かれているのでは…と予想しつつ、Abstructをさらっと読んでIntroductionを見ます。
ちなみに私は真面目に英語をそのまま読むことはしていません。(笑)
日本語で読む方法は後ほど説明します。
実際に読み進めてみる
さて、①のIntroductionでアゼロイルジグリシン2Kの説明を探すと、
Potassium azeloyl diglycinate, obtained by reacting the chloride of azelaic acid with two molecules of glycine and KOH, is a new generation ingredient. It is an innovative water-soluble molecule exhibiting sebum normalizing activity and whitening properties.
①Enzo Berardesca, et al. (2012) 「Clinical and instrumental assessment of the effects of a new product based on hydroxypropyl chitosan and potassium azeloyl diglycinate in the management of rosacea」Journal of Cosmetic Dermatology, 11(1), 37–41
日本語にすると「アゼロイルジグリシン2Kはアゼライン酸の塩酸塩と2分子のグリシン、水酸化カリウムを反応させて得られる新世代の成分である。革新的な皮脂の正常化活性と美白特性をもつ水溶性の分子である。」といった内容が述べてあり、下に示した別の論文が参照されています。
論文ではすでに過去の研究で示されたことを述べるときは、「詳しくはこの論文、文献で発表されていますよ」と出典を示すことになっています。なので、③にはアゼロイルジグリシン2Kの成り立ちについてより詳しく書いてあるはずです。
②のIntroductionではこのように書かれています。
Potassium Azeloyl Diglycinate is a product of the reaction between chloride ion from azelaic acid compound with two molecules of glycine and KOH.
②Sholichah Rohmani, et al.(2021)「Formulation and evaluation of the cream made from potassium azeloyl diglycinate as an antiaging」Journal of Physics, 1912 012041
こちらも①とほぼ同じ内容が述べられ、参照されているのは①でした。ということで③を読んでみることにします。
まとめると次のとおりで、お題の答えとなる内容が書かれています。
- アゼライン酸が効果を発揮するためには高濃度で配合しなければならないが、溶けにくいため製剤化の自由度が低いという問題があった
- 筆者らがアゼロイルジグリシン2Kを合成した
- アゼロイルジグリシン2Kはアゼライン酸の機能を損なうことなく、水溶性を高めており、アゼライン酸よりも低濃度で効果を発揮する
- アゼロイルジグリシン2Kには美白効果、皮脂抑制効果に加え、肌の水分量と弾力の改善効果も認められた
アゼロイルジグリシン2Kの何がすごいのか?というのを化粧品開発者の目線で補足します。
化粧品の成分の大部分は「水に溶けるもの」と「油に溶けるもの」のどちらかです。
化粧品をつくる工程は「水に溶けるものを混ぜた水相」「油に溶けるものを混ぜた油相」を乳化や可溶化といった方法で均一にするので、ここで「水にも油にも溶けにくい」アゼライン酸のような原料を入れる場合、工夫が必要になります。しかも高濃度でないと効かないとなると、難易度はさらに上がります。
つまり、アゼライン酸は効果はあるけれど処方開発者にとっては「扱いづらい」原料だったのですね。原料メーカーとしても売り込みにくかったのではないかと思います。
そこに同じ効果で水に溶ける、しかも低濃度でいいアゼロイルジグリシン2Kが登場したとなれば、処方の難易度はぐっと下がり、原料メーカーは売り込みやすくなり、使ってみようかなという化粧品メーカーも増えることが想像されます。
このように化粧品の進化には化粧品メーカーだけでなく原料メーカーの努力も大いに貢献しています。
英語の論文検索サイト
今回は運よくgoogle検索だけで目的の論文を見つけることができましたが、google検索で見つからなかった時は「PubMed」「google scholar」で検索すると見つかる可能性があります。
PubMedはアメリカの国立衛生研究所による医学・生物学分野の学術文献の検索サイトです。
google scholarでは医学・生物学分野に限らず学術文献を広く検索することができます。
英語の論文を日本語で読む方法
英語の論文、スラスラ読めるのが理想ですが、ほとんどの人にとってはとっつきにくいですよね。英語の授業は好きだった私でも、やっぱり日本語で読めるなら日本語がいいです。というわけで、日本語で読む方法を紹介します。
私はgoogle翻訳を使っています。「えっ、それでいいの?」と思われるかもしれませんが、専門用語も含めてかなり違和感のない日本語にしてくれます。
なので「まずgoogle翻訳で日本語にして、重要なところや訳が怪しいところだけ英語も確認する」のが一番効率がいいです。
では具体的な方法を紹介していきますね。
ブラウザがgoogle chromeの場合は、英語のページを開くと画像のようにアドレスバーの右側のマークから言語を選べるので、「日本語」を選んでください。(マークが出ないときの方法は、この後説明します)
google chromeを使っていても右側のマークが出ないときや、その他のブラウザを使っている場合は、まず「google翻訳」で検索して開きます。
「ウェブサイト」をクリックして、翻訳したいページのURLを入力してEnterを押すと、日本語に翻訳できます。
pdfなどのファイルを翻訳したい場合は、「ドキュメント」をクリックして、あらかじめダウンロードしておいた論文のpdfファイルをドラッグ&ドロップします。
こちらは実際に③のpdfをgoogle翻訳で日本語にしてみたものです。レイアウト崩れが激しいですが、文章は読みやすく、ざっくりした内容は把握できます。少なくとも全文英語で読むよりは時間短縮できます。
読みたい論文が全文公開されていないときは?
今回は読みたい論文が無料で全文公開されていましたが、中には途中までしか読めなかったり、そもそもインターネット上にはなかったりするものもあります。
どうしても読みたいときはインターネット上で記事を購入する、図書館に複写を申し込むなどの方法がありますが、長くなるので別の記事にしました。よかったらご覧ください。
最後に:論文も完璧ではないことを知っておこう
ここまで論文の探し方を解説してきましたが、知っておいてほしいことがあります。それは「論文も完璧ではない」ということです。
複数の研究グループが同じような実験をして異なる結果が出ることはよくありますし、正しいと思われていたことが後で間違っていたとわかることもあります。STAP細胞の件のように、論文になったからといってすべて正しいわけではありません。
あくまで「過去の研究もふまえた上で、現時点では正しそうなこと」ぐらいに捉えておくのがちょうどいいです。
まとめ
- 研究者でない一般の人は日本語→英語の順で検索するのがおすすめ
- 英語の論文は無理せずにgoogle翻訳を使って日本語で読もう
- 論文も完璧ではないと知っておこう
一般の方もわかりやすいようにと思っていたらかなり長文になってしまいました。
最後まで読んでくれる奇特な方がどのぐらいいるのだろうという気持ちですが、どなたかのお役に立てていたら幸いです。お読みいただきありがとうございました。
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